症状別アドバイス集

その他の部屋

「新しいスタート」 '13.12 

Pさん、大変な中で生活されてきたのですね。短い文章に書かれた出来事の一つ一つがどれほど大きなことだったか。その中でここまでやってこられたこと、そして今また、自分の問題・子どもの問題に立ち向かっていかれているのは本当にすごいことです。「本当の喜怒哀楽を大事にして存分に生きたい」に強い思いを感じます。これまでの(特に幼少期の)出来事は、まさに感情を感じずにやり過ごすことが最善の対処法で、そうしなければ対処できないことだったのではないか、そんな気がします。今それを取り戻していかれている最中だとしたら、自分が心地よく感じるものに触れる時間を定期的に持つことや、どんな小さなことでもいいので自分がしたいなと思うことが何か生じたら(「行きたい」「食べたい」などでも)、その気持ちに乗って動いてみることもよいかと思います。そうする中で少しずつ自分にしっくりくるものを感じていけたらいいですね。

実際、Pさんの問題がお子さんにどのくらいの影響を与えているのかはわかりませんが、そういう目でお母さんが自身のことを振り返り、自分たちの声を聞こうとしてくれていることが、お子さんにとっては何よりの支えになると思います。

また今月のこのフォーラムでは忘年会の話題もずいぶん出ていました。参加された方はとてもよい時間を過ごされたようで、よかったです。
特に対人場面での不安を持つ人には、人と集う機会は「恐怖」でもありますよね。迷った場合、判断の基本は

1)自分が行きたいかどうか、そして
2)立場的に行かねばならぬかどうか、の2点です。

1)も2)もNoであれば、基本的に行く必要はなし。必要なら連絡だけはきちんとして、行かないでどうだったかを観察してみる。それでOKなら、良い判断だったし、後悔があればまた次回は違う行動を試してみる。
一方、ちょっとでも行きたい気持ちがあるのなら、行ってみる・行ってみようとするのが大事です。そして参加してどうだったか、行く前とその最中、行った後の様子を振り返ってみるといいですよね。
まったく行きたくないが、行かねばならぬ状況にあるのなら、全出席ではなく2回のうち1回は行くなど飛び飛びで対応してみて様子を見るのもいいかもしれません。そして絶対に出なければいけないのであれば、それは出席して、少しでもその時間を楽に過ごせる方法を考える。無理にやろうとするから苦しくなるので、「こうせねば」をちょっと脇に置いて、こんな風に少し試してみることができたら、それはもう変化が起こり始めている証拠です。
(今村祐子)

「森田療法センターについて」 '13.11 

今回は、開設から6年半が過ぎた森田療法センターについてお伝えしたいと思います。
当センターは、東京都狛江市の東京慈恵会医科大学附属第三病院内にあります。1972年から「森田療法室」として運営されてきましたが、2007年5月に、森田療法の診療・教育・研究を推進する「森田療法センター」としてリニューアルしました。
ここ数年の入院患者さんの傾向としては、強迫性障害に次いで、気分障害(慢性化したうつ病・うつ状態)が27%と多数を占めています。また薬を用いたくないと療法を希望される方以外にも、治療によって減薬を希望される患者さんもいらっしゃいます。

リニューアルしてからの退院時の改善率は全体で64.4%でした。類型別の改善率は社交不安障害(対人恐怖症)67.9%、強迫性障害64.2%、身体表現性障害57.1%、気分障害(うつ病)73.9%という成績でした。 ホームページ(当ホームページのリンク参照)には改善例についても載っていますので御参照下さい。
(矢野勝治)

「うつ病に対する森田療法」 '13.10 

森田療法は元来神経症(不安障害)に対する精神療法ですが、うつ病へも応用されています。ただうつ病の症状・憂うつな気分、物事に対する興味の低下、体を動かすのがおっくう、集中力が落ちている、眠れない、食欲がないといった症状が強くある場合(つまり極期)、特に死にたい気持ちがあるときは休息と抗うつ薬を中心とする薬物療法が大切になってきます。車に例えれば、エンジンを切ってガソリンを入れる時期です(エンジンを切ることが休息、ガソリンが抗うつ薬と私は説明します)。森田療法的な知恵が役立つのはどちらかというと極期を脱してからになります。

元来うつは自然回復していきます。しかしその自然回復を阻害する要因があるとこじれてしまいます。その中のひとつの要因として、神経質性格が挙げられます。自分に対して「こうあらねばならぬ」といった構えが強かったり、「否定的な感情はあってはならない」といって自然な感情を知性でコントロールしようとすると、うつの自然な回復が損なわれてしまいます。

うつのいわゆる極期では休息をしてから「〜したい」気持ちが出てきましたら徐々に行動へ移していきましょう。ただ回復の過程には行きつ戻りつがあり、波があります。ですので回復過程で少し後退した時、自分を全否定をしないことが大切です。この際には一日中動くといったような無理は禁物です。疲労感が出たら休み、やる気が出て来たら少し動いてみる、くらいの姿勢で良いです。

そして60から70%ぐらいまで回復してきたら生活のリズムは整えた方が良いです。この時期、理想の自分と現実の自分のギャップに悩む場合があります。いきなり社会復帰を万全に出来る人はいません。最初の一ヵ月は半日勤務、残業なしぐらいが望ましいです。
そしてうつが回復してから今までのいわゆる「やり過ぎ」「頑張り過ぎ」の生活スタイルを振り返る必要があります。うつになったきっかけを振り返り、今後の生き方自体を少しずつ柔軟にしていくことが大事になってきます。
このようにうつ病に対する森田療法的な考え方は回復過程で役に立つと言えます。
(舘野 歩)

「抑うつ状態の種類と治療」 '13.9 

Cさんは抑うつ状態で、入院治療を受けた方が良いのか悩んでいらっしゃいます。まずは一般的なうつ病の治療について説明させていただきます。

「抑うつ状態」という診断は実は正確なものではありません。「抑うつ状態」になる病気としては「うつ病(一回だけのもの、繰り返すもの)」「双極性障害(躁うつ病)」「気分変調症(抑うつ神経症)」「状況反応性の抑うつ状態」など様々あります。

一般的にうつ病の場合、薬物療法は完全に治った状態でも半年は同じ量の抗うつ薬を飲むことが推奨されています。また、再発を繰り返している場合は基本的には薬物療法を継続した方が良いでしょう。また、双極性障害の場合も気分安定薬を継続した方が再燃・再発の予防という観点からも良いでしょう。気分変調症や状況反応性の抑うつ状態に関しては薬物療法の継続はケースバイケースだと思います。Cさんの場合はどの診断になるのか、分からないので、ここは主治医の先生とよく相談されることをお勧めします。

ただ、解決の糸口になりそうな事が一つあります。それは「職場のストレスがもとで悪化する」ということをebisu28さんが自覚されているという点です。職場のストレスというのが、仕事の内容の問題なのか、対人関係の問題なのか、職場の環境なのか、など色々と要因はあると思います。それに対して、職場として環境調整が必要な状況なのか、それとも、Cさんがそのストレスに対して対処していく方法を考えていくことなのか、あるいは両方なのか、それを考えていかなくてはならないと思います。仮にストレスの少ない環境で入院治療をして、抑うつ状態が改善したとしても、それらが解決していなければやはり復職後に悪化してしまうのではないでしょうか。

また、「入院治療」といっても、「休息入院」なのか、「それ以外の入院」なのか、で治療内容も大きく異なります。実際、入院森田療法の中では「本人の行き詰まり」を扱いながら治療を行いつつ、復職に向けて環境調整を行ったりもしています。 この点も含めて、主治医の先生や職場の上司・同僚、産業医の先生なども交えて、治療方針を相談していくことが一番良いのではないか、と思います。
(谷井一夫)

「新規蒔き直し new biginning」 '13.8 

この数年、精神神経科の外来をしている中で、感じることですが、過去のいじめ体験、虐待などを契機にして「対人恐怖」に悩むようになっている方にお会いすることがしばしばあります。

森田先生が、森田療法を創始したころの「対人恐怖」は、「現実」と「理想」のはざまで自己自身が葛藤する姿が典型的なものでした。こうした対人恐怖の構造ではなく、過去のいじめ体験、虐待などを通して、人間に対する基本的な信頼感が得られず、人間不信となり、「人間存在」そのものを「怖い」と認識するに至っている「対人恐怖」の構造です。過去のいじめ体験、虐待などを診察の初診の時から語ってくれる方もいらっしゃれば、外来に通院してしばらく経ってから語ってくれる方もいます。

皆さんが、こうした過去のつらい体験を治療者に語ってくれるときは、治療者としての私を信頼して「この先生なら、こうした話をしても大丈夫だろう」と実感されてからのように感じます。それはそうです、過去の体験から、人間に対する基本的な信頼感を感じることに困難を感じていらっしゃるのですから、治療者としての私に対して不信感を抱き、「怖い」存在と認識しても全然、おかしくありません。ですから、そうした他人である治療者としての私に過去のつらい体験を語ることが出来るようになっている時点で、回復の第一歩を果たしていると言って良いかもしれません。皆さんの「語り」からは、怒り、屈辱感、絶望、悲しみ、諦念など、様々な感情が伝わってきます。そうした体験を、私なりに「どのような体験であったのだろうか」と思いをめぐらします。すると、何とも言えない「無力感」に襲われることがしばしばあります。私が感じている「無力感」は、皆さんがそのつらい体験の時に感じた「無力感」そのものなのです。私はそうした無力感に襲われながら、何か患者さんに語りかける言葉を自分の中から必死に探そうとしますが、何も出てこないのでした。
軽々しい言葉はどこからも出てこないのでした。私は、ただただ、皆さんのつらい体験の語りに誠実に耳を傾けることに集中するのでした。いじめ、虐待、いずれも、一方的に他者からのいわれのない暴言、暴力にさらされるものです。

こうした一方的に体験がなされるところに、こうした体験のつらさがあると思います。自分にさしたる理由もないのに、暴言、暴力にさらされるとしたら、それは恐怖としか言いようがありません。そうした方々が、森田療法を希望して来院されます。外来森田療法であれ、入院森田療法であれ、回復の基本は「失われた人間に対する基本的信頼感を取り戻すこと」にあります。外来であれば、治療者との関係を細々であっても継続することそのものが大事なものとなるでしょう。入院森田療法であれば、一緒に生活を共にする患者さん同士、我々医療スタッフ、皆で世話をする動物、植物たちとの関わり(つながり)がとても大事になるでしょう。いずれも小さな1つの「出会い」が回復の契機になるように思われます。

しかし、往々にして、こうした、いじめ体験や虐待などを経験していらっしゃる方は、誰かに頼ることを既に諦めてしまっている方が多いように思います。それはそうでしょう、他ならぬ自分がいじめや虐待で苦しんでいるときに、誰も救いの手を差し伸べてくれなかったのですから。「どうして、その時に、あの時に、救いの手を差し伸べてくれなかったのか」という切実な声が聞こえてきます。他ならぬ治療者である私も、積極的にいじめに加担することはなくとも、そうした事態をただ傍観していた可能性が十分にあり得ます。

そうした、人間に根源的に内在する矛盾を自覚した上で、私は、皆さんに「人生を諦めて欲しくない」と伝えたいのです。私のもとに通院されているいじめ体験、虐待をうけた方々の多くが、ゆっくりではありますが、人間に対する信頼感を取り戻しつつ、「もう一度、人生を自分なりに一生懸命に生きてみよう」と感じていらっしゃる方々がいます。こうした「もう一度やり直してみよう」という再スタートのことをM.Balintという精神科医が「新規蒔き直し new biginning」と言っています。「新規蒔き直し」、すなわち「生の欲望」の躍動です。皆さんのなかに眠っている「生の欲望」に火を灯そうではありませんか。我々、人間には「生の欲望」が内在するのです。諦めずに、小さな小さな「つながり」を大事にしていきましょう。この体験フォーラムも大事な1つの「つながり」です。こうした、小さなつながりの連続が、私たちに生きる勇気と希望をもたらします。私のこの小さな拙論が、どこかで、誰かの希望と勇気につながれば幸いです。

「いじめ」に関する著書として、中井久夫先生の以下の著書がとても参考になります。
「アリアドネからの糸」中井久夫 著(みすず書房)
(川上政憲)

「焦らず徐々に慣れていく」 '13.7 

Tさんは16歳から不登校になりほとんどひきこもり状態だったとのこと。森田療法を始めてまだ4カ月とのことですが、毎日のように散歩をするようになり、ストレッチや家事手伝いをはじめ、文章も少し読めるようになるなど活動が広がり、さらにはアルバイトにも応募したりと、あれもしたいこれもしたいとの思いがある一方で、「身体が疲れて動けなくなる」「疲れを把握出来ていなくて頑張り過ぎていた」と感じる時がある様です。

頑張っている様子が伝わってきます。しかし「長年ひきこもりに近い生活をしていた」とのことですので、まだ心と身体がアンバランスな状態になりやすく、焦りから活動を広げ過ぎているのかもしれません。現在を入院森田療法にあてはめるのであれば、(絶対臥褥期の後の)軽作業期にあたるのではないかと思いました。入院森田療法で軽作業期は、戸外に出て自然をよく観察したり、部屋の掃除やひとりで出来る簡単な作業に徐々に手を出していく時期です。臥褥によって高まった活動欲を一時に発散するのでなく、気分に流れず徐々に必要な行動に向かっていく、徐々に生活のペースを掴んでいく助走の時期と考えます。
これまでにも、うつ病の他に、聴覚過敏や読書恐怖、強迫観念などいろいろな症状でお困りの様です。Mさんも以前に仰っていますが、主治医の先生とよく相談しながら治療を進めていって下さいね。
(矢野勝治)

「慢性うつ病の治療について」 '13.6 

こんにちは、Kさん。現在、気分変調性障害で3年に渡り、治療を受けられているようですね。抑うつ、不安、自殺念慮などを抱えながら、仕事をこなされているのですから、そのご苦労は並大抵なことではないと思います。

気分変調性障害の診断は、抑うつ症状がうつ病ほど重篤ではないものの、2年以上に渡って慢性的に持続している場合に用いられます。しかし、気分変調性障害も慢性うつ病の一つなのです。他の慢性うつ病がそうであるように、気分変調性障害でも、十分な休息や抗うつ剤の投与が施されているにも関わらず、回復する切掛けが中々つかめない状態であることには変わりはありません。
私は日頃、慢性うつ病の患者さんを診察する上で、大切にしている点があります。それは、日常生活の送り方を見直していくことにあります。うつ状態が慢性化すると、多くの患者さんは、日常生活に対する無力感から、どうしても投げやりな思いを強めていきます。その結果、生活が不規則になってしまうことで、さらに無力感を募らせ、回復への切掛けを見失ってしまうのです。

Kさんの場合は、どうでしょうか? 日常生活で不規則な状態に陥っている点はありませんか?
もし思い当たることがあるとすれば、まず睡眠リズムから整えることを意識していきましょう。仕事はかなり多忙を極めているでしょうから、その分だけ早寝・早起きを心掛けていってください。
次に、食事と内服の時間は極力守っていきましょう。内服が不規則になるとそれだけで、状態が不安定になることが多々見受けられます。食事も偏ると胃腸の状態を崩し、体調不良から無力感の増大に加担することとなってしまいます。最近では、胃腸の調子を崩さない生活スタイル自体が、抗うつ的に作用するのではないかと私自身は考えています。
最後に、断捨離ではありませんが、身の回りのものはある程度整理整頓することをお勧めします。慢性うつ病者が日常生活の整理整頓を行うことは、汲々とした心にある種の余裕を与えることに繋がります。今は、まだまだ苦しみの渦中でしょうけれども、生活から整え、やがてKさんの心が少しずつ回復することを願っています。
(樋之口潤一郎)

「結果を急がず」 '13.5 

Tさんは「森田療法を始めて2カ月。以前に比べると活動できていて続いているので、そろそろアルバイトを始めようかと思い、親や病院の先生にも伝えました。ところが、いよいよ探して応募しようかと考えていると調子が悪くなってしまいました。無理してでもやってみるかとも思いましたが、先延ばしすることにしました。」と書き込まれています。それで「少し落ちました」とのこと。
森田療法を始めて2か月で、活動を広げてきて続いているのですね。短い期間にたくさん学んでこられているよう。それだけに、次の一歩を考えた時に調子を崩したことは、気落ちしたことでしょうね。
けれども、森田療法のプロセスは「行きつ戻りつ」がむしろ基本です。
神経質の人の陥り易いあり方に、結果、答えを急ぐ、ということがあります。

森田先生得意のユニークな喩えに、こんなものもあります。「鰻を食ったら、一日に二百匁(もんめ。1匁=3.75gだそう)あて体重が増すと、直接に考えて、強いて食ったら、下痢する。うまく食っているうちに、間接に栄養がよくなるのである」。
つまり、直接に結果を求めるのではなく、「間接に接近している間に、自然に病気も治るのである」というのです。

Tさんも、今は「とりあえず今のそれなりに活動的な状況をできる範囲で続ける事と、もう少し活動の範囲を広げること」と考えているとのですね。ぜひできることを手探りしていってください。
そして少し落ち着いたら、今回のアルバイトの件では具体的にどんな点が不安に感じたのか、どういう選び方をしていくとよさそうか、整理しておくとよいでしょう。そうすることで、今回のことが「経験」になり、「次は・・」と考えることにつながるのではないでしょうか。
「自信」や「勇気」を持つことを急がなくてよいのです。ご自身も書かれているように「かっこ悪いですがゆっくり」進んでいってください。
(塩路理恵子)

「完全を求めすぎる弊害」 '13.4 

Hさんは、何かを決める、選び取る場面になると尋常ではないほどに悩み、決められなくなってしまうことに悩んでいます。例えば、子供が病気の際にどこの医者にかかればいいのか悩み、色々調べるものの決められず、食事や睡眠にも支障をきたすということでした。あれやこれやと思い悩み、なかなか決断が出来ないことは、私達も経験することがあるでしょう。

では決断が出来ないのはどうしてでしょうか。何かを選択するということは、同時に他の可能性をとりあえず捨てることを意味します。それだけに、特に大事な事柄であればあるほど、間違った選択をしないようにと考えて、決断には慎重になってしまうのです。ましてや、選ばなかった方は、経験をしないことになりますから、あちらの方が良かったのではないかという後悔や、心残りが生じてしまうのも当然の結果と言えるでしょう。

Hさんが過剰にあれこれ悩むのは、間違った選択をしてはならないという思いが非常に強い、ある意味強すぎるからと言えます。正しい選択をしたい、失敗が無いようにしたいという気持ちは、完全を求める心であり、決して悪いことではありません。しかし、先のことは誰にもわからないのです。わからないことを、確実にわかろうとする、この不可能な試みが不決断を招くことになります。そして、Hさんも書いているように、「どの選択をしても間違える運命なのではないか」と自らに対する疑念だけを強め、結果的にますます自信を失ってしまうのです。長所も高じれば短所になるように、完全でありたいという気持ちも、常に完全であらねばならないと身構えれば、決断することに怯え、結局何も行動を起こせないといった不完全な状況を生み出してしまうと言えるでしょう。

決断をするときには、情報を集め、「今」わかる中で最善な方法を選ぶしかありません。あるいは、自分がどうしたいのかといった率直な欲求に従うしかないのです。ここで重要なポイントは「今」ということです。決断し、時間が経った後でわかることは、決断する前にわかることではありません。あらかじめ全てを網羅した答えを見つけようとするのではなく、決断した後にわかったことについて、その時点で「今」どうしたら良いのかを考え工夫する、この繰り返しで良いのです。

いずれがベターかがわからない時には、それがまた「今」わかっている事実なのです。あの時にはそれがベターだと思って選択した、という事実を認め、その時々の状況に応じて、関わり方を工夫することが柔軟性や臨機応変の姿勢へと繋がっていきます。言い換えれば、全てを完全に把握することは不可能である、という事実を認め、良い意味で「一旦諦める」ことです。そして「今」わかることに目を向け、とりあえず踏み出してみましょう。その一歩によって、必ず次にやるべきことが見えてくると思います。
(久保田幹子)

「気分変調症から脱するには」 '13.3 

Aさんは、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)にかかりながらも必死で仕事と家事をこなしているうちに、ある日体が動かなくなり、仕事にも行かれなくなったとのこと。以来7年間にも及ぶ慢性の抑うつ状態(気分変調症)に苦しんでおられるのですね。心療内科にかかっているものの、一向に改善の兆しが見えないということです。

Aさんの抑うつ状態は、なぜ長引いているのでしょうか。念のために確認したいのは、バセドウ病の治療はどうなっているのかということです。バセドウ病自体でも気分が不安定になり抑うつ的になることがあります。また反対にバセドウ病の治療によって甲状腺機能が低下気味になっても、抑うつ状態を招くことがあるのです。もしいずれかに該当するのであれば、先ずは甲状腺の機能を正常に復することが抑うつ状態を改善する必要条件になります。治療を継続されているようでしたら、甲状腺の機能が安定して正常範囲に保たれているのかどうか、かかりつけの先生に一度確認してみてください。

甲状腺機能に問題がないとすれば、Aさんの性格や環境が抑うつ状態に関係していないか、よく吟味する必要があります。Aさんは物心ついた時から我慢強いことが自慢だったといいます。自営業の家に嫁いでからは、「家族は休みなく働くのが当たり前と言われ、必死で仕事と家事をこなし。喧嘩が大嫌いなので言いたいことも主人に言わず我慢」してこられたそうです。たしかに我慢強さは美徳ですが、このように自分の気持ちや願いを相手に伝えず抑え込んで、ひたすら周囲の求めに合わせていくという生き方が、抑うつ状態と関係しているように思えてなりません。周囲の人とのそのような関わり方が変わらなければ、仮に気分や意欲が改善したとしても、仕事と家事に封じ込められた元の生活に戻るしかなくなります。そう考えただけで、なんだか回復したいという気持ち自体も萎えてきそうに思うのです。

Aさんの抑うつ状態が改善するには、休息と抗うつ薬の服用といった一般的なうつ病治療では不十分のようです。日ごとに変化する自己の状態を受け入れながら、徐々に活動モードに移行していくという森田療法的な養生を実行すると共に、本当はどうありたいのか、先ずは自分自身の心によく尋ねてみる必要がありそうです。そうしたご自分の在り方を自覚し、新しい行動を身に着けるには、カウンセリングなどの他に入院森田療法も選択肢のひとつかと思います。
回復を心からお祈りいたします。
(中村敬)

「まずは”豊かなひきこもり”を目指しましょう」 '13.2 

10年間、引きこもられていてさぞかしお辛いと思います。でもそんな中このサイトへ書き込みをしたのは第一歩だと思います。
書きこまれた数行の中で判断するものとは思いますが、「体の痛みがあると仕事ができない」、「憂うつな気持ちになると、こんな感情で、仕事を続けられるわけがない」という文面から、ちょっとした症状や感情があるとすぐ行動をゼロにしてしまう、「100か0か」といった両極端な一面が読み取れましたが、いかがでしょうか?

「今の不安や恐怖にとらわれている状態をなんとかしよう」との記載があります。今の不安や恐怖をなくそうと思えば思うほど不安や恐怖は追ってきていませんか?そうです、不安や恐怖をなくさず、そのままの状態で何かご自身の「したい」ことを模索していくことが、結果として不安や恐怖を減らす方法になります。不安や恐怖をなくすのではなく、いかにいまの不安や恐怖から「抜け出す」ことに目を向けていくことが大事です。

また、「万全な体調でなければならない」とか「憂うつになってはいけない」といった「こうあるべき」考えに「とらわれて」いませんか?「万全な体調でなくても」「様々な感情を持ちつつ」何かやれることを少しずつ模索してみてはいかがでしょうか?10年間引きこもっているのでいきなり外界へ出ることを目標にするのはハードルが高いように思えます。このようなサイトを通して他の似たような悩みの方々がどのように症状から脱却していったのかを知るのも良いでしょう。ネットを使用しつつまずは「豊かな引きこもり」を目指しましょう。

ネットから得た情報を元にご自身のご興味のある領域へ実際足を運んでみましょう。それは、近場の風景でも良いでしょうし、ご興味あれば絵画や音楽でも良いと思います。実際に足を運んでみると、ネットだけでは味わえない感動があると思います。また(危ないサイトでないことを祈りますが)サイトで共通のご趣味をお持ちの方々と行動をともにするのも良いかもしれません。このような「感情体験」を積み重ねていくと「心の器」も広がり成長していくと思います。

Lさんのご年齢がわからないので「豊かなひきこもり」をどのくらいの期間にしたらよいかはなんとも言えません。しかし何年も「豊かな引きこもり」を送らない方が良いでしょう。最初は数ヶ月から半年くらいを、長くて一年くらいに思っていてはいかがでしょう(場合によってはもっと長くなるかもしれませんが)。先程述べたような日々の何気ない生活の積み重ねをしていき次第にご自身の興味ある仕事も探していくと良いのではないでしょうか。
(舘野歩)

「"調子が悪い"="寝て休まなくてはいけない"の方程式を崩す」 '13.1 

Kさんは過去12年間、神経症系障害に苦しんできましたが、軽快の方向へ向かい、アルバイトへ復帰できました。しかし、気分障害の症状をうまくコントロールできず、就労に不安があり、調子が悪いと、寝付いてしまう事もあり、悩んでおられます。

気分障害にも色々な種類があり、また、その程度や状態によってもどのように過ごすと回復しやすいのかは異なります。Kさんは「アルバイトは3カ月ある程度出来ている」「不眠や希死念慮はない」とのことなので、少なくても気分障害の症状は6〜7割は改善しているのではないでしょうか。

うつ病の症状が重い時はまずは休息・薬物療法の2本柱が重要ですが、6〜7割回復してきている状態の時はいたずらに休息する事が回復への近道ではありません。状態に応じて休息をとることは大切ですが、「調子が悪い」=「うつ病が悪い」=「寝て休まなくてはいけない」の方程式を少し見直す必要があります。

「調子が悪い」の中にも

(1)「本調子ではないけど、職場に行けばなんとかなるかな」
(2)「いつもと同じように頭を使ってやる仕事はきついけど、単純作業位はできそうかな」
(3)「頭も身体も全く動かなくてしんどい」

・・・などなど、色々とあるのではないでしょうか。
確かに(3)の時は休むしかないと思います。しかし、(1)や(2)などの時も「調子が悪い」=「寝て休まなくてはいけない」の方程式を当てはめてしまい、「本調子でないし、ちゃんといつも通り出来ない位なら休もう」と考えて寝て過ごしてしまってはいないでしょうか。そうなれば「こんなに休む事があって、ちゃんと就労できるのだろうか」という不安にもつながってしまいます。

今後の為に、Kさんが、今出来る事は、
(3)以外の(1)や(2)などの時に寝て過ごす以外の方法を試してみる事ではないでしょうか。
例えば、「本調子ではないけど、とりあえず職場に顔をだして、無理そうなら早退する」のように、今日、今の状態だとどの程度活動できるのか、逆にどのような活動が負担になるのか、などを色々と試していく事です。それをコツコツと繰り返し、「寝込まなかった、休まなかった、仕事に行けた」などの事実を積み重ねていく事が大切なのだと思います。事実、Kさんは3カ月ある程度安定してバイトが出来ています。この事実をしっかりと自分でも見てあげる事も大切です。
(谷井一夫)

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