私の経験では、生きがい療法はどんな人にとってもガン・難病に伴う不安・死の恐怖への対処に役立つと思われます。性格・人柄とは直接的な関係はないように思います。
ご本人が生きがい療法を取り入れようという姿勢があれば、病気のどのステージにおいても役に立っています。しかし、できれば発病当初から取り入れたほうが、長い闘病期間全体に効果が発揮でき、利益は一層大きいと思います。
1997年6月ニューヨーク森田療法学習会の人々が行った作品展に、日本の生きがい療法実践者10数名が作品を提出し、参加しました。日本側の作品提出者にとっては、自分の作品を米国の人々に見て頂けたことが、大きな生き甲斐のひとつとなりました。また、この作品展の様子は生きがい通信に紹介され、多数の読者の学習資源となりました。
モンブランに登山した7人のガン闘病者(Cancer survivor)のうち、すでに進行ガンであった2人は、登山後2年数カ月で永眠されました。しかし、この2人は登山直後より仕事に復帰し、また、望まれれば各地で闘病体験談を講演するなど、死の直前まで社会に貢献する活動に取り組んでいました。他の5名は10年後の現在も元気に仕事や趣味、スポーツに取り組んでいます。それぞれの人が、モンブラン登山を体験したことによって、その後の生きる意欲、生き甲斐が大幅に高くなったと語っています。
生きがい療法は一種の心理教育的療法(Psycho-educational therapy)といえます。基本的には解説書や視聴覚教材によって個人で学習できます。会員制の生きがい療法実践会という学習援助団体が、そのお世話をしています。また、希望する人には、全国3ケ所で行っている定例学習会に参加したり、医師や指導員と面接して個人指導を受けることも出来ます。
生きがい療法では、絶対臥褥はプログラムには含まれておりません。しかし、私が神経症の人々の個別の治療にあたる際には、絶対臥褥も採用しています。
登山は、生きがい療法のひとつの実習ですから、希望する会員が自発的に応募し、参加します。この種の実習は登山以外にも、旅行、作品展、病院に絵を描く活動、大学で「一日教授」をする活動その他いろいろありますので、自分の条件に合ったものに参加できます。生きがい療法は個人の学習が目標であることを各自自覚し、他人はどうであれ、自分が選択した生き方にしっかり取り組むことを推奨しています。
人は誰しも自分の能力を最大限に発揮して大きな目標に挑戦し、自己実現をはかりたいと考えていることでしょう。しかし、日本のガン闘病者の人々の多くは、予後不良の病気になったためもうそのような自己実現の機会も可能性も無くなったと落胆します。生きがい療法では、たとえガンになっても生きる目標に取り組むことは可能であることを体験的に学んで頂くために、共同体験学習(実習)を行っています。その体験学習はさばざまなテーマで企画され、希望者が参加します。その内容は登山や旅行、作品展、病院に絵を描く活動、プロの落語家とユーモアを競う会、大学で一日教授として講議するなど、さまざまなものがあります。こうした体験学習に参加することによって、再び病気や困難に負けずに生き甲斐に挑戦していこうとする意欲を手にする人々が多いといえます。
日本では、死そのものよりも、死に至るまでの苦痛を恐れている人が多いように思います。又、病気になれば家族や周囲の人々の援助をうけるのは当然だと考えている人が一般的ですので依存性は気にする人はあまりいません。
私たちのゴミ拾いの最中にも、パリの清掃組合の人々が車でゴミの収集をしていましたが、彼等が通った後にも小さなゴミはたくさん残っていましたので、私達のゴミ拾いに支障はありませんでした。拾い集めたゴミ袋を目的地の凱旋門前で清掃組合の人々に渡したところ「メルシ、ボクー」と言って大変喜んでくれました。
ある直腸ガンの女性が、死の恐怖の怯え圧倒され、日常生活もままならない状態となっていました。その人の様子が、強迫性障害の症状とよく似ているという印象をうけたことで、森田療法を試み大変効果的であったという体験からです。
日本にもまだ数は少ないですが、ガン治療中の人々の自助団体があります。これまでの日本人の文化の特徴として、集団依存的な傾向があり、自助団体にもそうしたスタイルでかかわる人々も多いようです。集団的な励ましあいや支援を期待する一方で、個人主義的発想が乏しいために、集団内のマイナス情報やストレスによる悪影響を受けやすいという弱点もあります。したがって最近は自助団体のメンバー中にも、個人的に森田療法を学び、自分の生き方に役立てようとする人も増えています。
直接参加する人はおおよそ10%位でしょう。でも、直接参加しなくても、体験学習のビデオや文章によるドキュメントを読むことによって、間接的な体験学習となります。
生き甲斐療法実践中の人々の中には、進行ガンにかかわらず、予想以上に元気で長生きしているケースがかなりあるという印象を受けています。ただし、比較対照試験による科学的証明はできていません。しかしながら、米国UCLAのFauzy教授がMelanoma手術後の人々に、生きがい療法に近い内容の心理教育的治療を行い、6年後の再発率が1/2に、死亡率が1/3となるデーターは、生きがい療法が身体的治療効果に良い影響を及ぼすことの傍証となっていると思います。
作品展の様子は生きがい通信紙上で紹介され、多くの会員が、自分も何か作品を創りたいという創造意欲を刺激される機会となりました。共同で行う体験学習としては、日本の生きがい療法の闘病者のニューヨーク訪問の旅、ニューヨーク森田療法学習会の人々の日本訪問の旅などによる交流が実現すれば素晴らしいことと考えています。
ニューメキシコ州の米国人数名とカリフォルニア州の日系米国人4名とに利用してもらいましたが、それぞれに効果的であったとの評価をいただいています。これは少ない経験の範囲ですが、今のところ修正の必要は感じていません。
ゴミ拾いの実習は短時間に森田療法の考え方を学習できる技法だと考えています。国内の生きがい療法学習会でも時々ゴミ拾いの実習を行っています。この旅行の中で行ったいくつかの体験学習のひとつとして、生きがい療法実践会事務局で企画したものです。パリでのゴミ拾いに先立って、フランス側の協力者の人々とも協議し、警察当局の了解を得ました。この種の実習は、ゴミ拾いでなくても、簡単にできて人の役に立つことなら何でもよいので、別の案もあれば採用したいと思います。
会員の死について、学習会で意識的に取り上げることはありませんが、ごく自然に話題になることはあります。残された家族ととくに親しかった人は個人的に援助協力をすることはあります。残された家族の中には引き続き生きがい療法の学習活動に参加することによって、自分自身の悲しみから立ち直るのに効果をあげている人もあります。
医療専門家向けの特別の研修システムはとっていません。ガン闘病者達と同じ学習法で個人学習をベースに、学習会に参加して研修していただいています。生きがい療法の学習は闘病者、家族、一般社会人、医療専門家の区別をこえて、全ての社会人の生涯学習であるという観点から、そのような方法をとっています。
芸術作品の展示・鑑賞を目的とした芸術展と、ホスピタル・アート財団の病院に絵を描く活動とは目的が違います。後者は老若問わず誰にもわかりやすい図案で病院の壁を明るいものに変えようという試みです。その作業を、入院中の人々など沢山の人々の共同作業で取り組もうとするものです。集団で取り組むボランティア活動であることに意味があると思います。生きがい療法では、どんな作品であれ、実際の必要に一番合ったものを作ることが大事だと考えています。
家族の人々も自分自身がより良い人生を送る目的で学習に参加しています。そして、その人々の条件に同じて学習会や共同体験学習の成功のために、力を発揮しています。
生きがい療法は毎年会員登録をした人が1年間会員として学習に加わります。その後、会員を更新継続する人、中断する人様々です。長い人は10年以上継続しています。いずれにせよ、その人にとって必要な期間継続し、このシステムを利用しているのです。
参考書・ビデオ・カセットテープなどによる個人学習によって、入門コースは自分で学ぶことができます。内容は「5つの指針」についての理解と日々の生活への活用、心の働きと自然治癒力との関係についての理解などです。