メンタルニュース

メンタルニュース NO.17

入院 森田療法の今日的な意味

慈恵医大「森田療法室」の治療統計から―

中村 敬
Kei Nakamura
東京慈恵会医科大学 精神医学講座講師
同大学第三病院 精神神経科医長を兼務

入院森田療法のゆくえ

森田療法は、1920年ごろに東京慈恵会医科大学・精神科の初代教授であった森田正馬博士(1874〜1938年)が創始した、神経症のための精神療法です。

この森田療法はこれまで、民間の専門施設によって伝統的な形(入院療法)が維持されてきました。しかし最近、こうした民間の専門施設は、後継者育成のむずかしさや医療経済上の理由から減少傾向にあります。したがって入院森田療法は、大学病院や精神病院の一角を利用した形態へと、じょじょに移行しつつあるのが現状です。

そのいっぽう、外来のみで森田療法を実施する病院や診療所は、とくに関東圏でここ数年、急速に増加しています。また、森田療法の集団学習を目的とした自助グループである「生活の発見会」も、全国に約6000人の会員を有するまでに発展を遂げました。

つまり現代ではひとくちに「森田療法」といっても、その形態は入院療法・外来治療・自助グループというように多様化しているのです。

では今日、入院森田療法はその存在価値を失いつつあるのでしょうか。それとも今後とも森田療法の、有効な選択肢として意味を持ち続けていくのでしょうか。このことを考える資料として、まず私たちの治療統計を示し、入院療法がどのような役割を担ってきたのかを検討することにしましょう。

専門病棟「森田療法室」について

慈恵医大第三病院(東京都狛江市)に1972年、ベッド数10床の「森田療法室」が設置されてから、すでに27年あまりが経過しています。1984年には新しい森田療法棟が完成し、常設ベッドは20床に増加しました。

1998年3月末の時点で、全入院者数は1078人にのぼります。わが国唯一の専門病棟をもつ大学病院として、森田療法のセンター的機能を果たしており、全国から入院を希望する患者さんが来院しています。

先任の北西憲二先生のあとを継いで私が診療医長になったのは、1995年のことでした。現在の治療スタッフは、7人の常勤医師と1人の病棟専任の臨床心理士、および14人の看護婦から構成されています。

調査対象と評価方法

今回は、26年間(72年4月〜98年3月)に入院治療を行なった1078例の中から、再入院例および森田神経質以外の病態を除外した、875例を調査の対象にしました。

診断については、強迫観念症・普通神経質・発作性神経症(パニック障害にほぼ相当するタイプ)という森田神経質3分類を基本としました。ただし精神医学一般の診断分類を考慮に入れて、強迫観念症は、強迫神経症と対人恐怖症に分けて集計してあります。

さらに強迫神経症は、主症状によってこまかく「不完全恐怖」、「不潔恐怖」、「縁起恐怖」、「その他」(他の強迫主題、もしくは複数の強迫症状の合併)に分類しています。

同じく対人恐怖症も、「神経症レベル」と「重症例」(自分の症状により周囲の人びとに迷惑をおよぼし、その結果、周囲から避けられているという考えをもつ人)に区分しました。

退院したときの状態は、「症状、行動、症状に対する態度・洞察」を総合して、つぎの4段階で評価を行ないました。すなわち、改善(症状、行動レベルで高度の改善を認め、症状受容の姿勢と洞察が得られたもの)、軽度改善(症状、行動レベルで改善があり、症状受容の姿勢があるていど認められるものの、洞察はあいまいなもの)、不変(入院前と比べてさしたる変化のないもの)、脱落(治療中途で、治療者あるいは本人の判断で中断したもの)、がそれです。

統計調査の集計結果

(1)性差および年齢

調査対象の875例のうち、男性は655例(74・9%)、女性は220例(25・1%)で、およそ男女は3対1の割合でした。

男女比は、年度によるばらつきが大きいのですが、ここ数年は男性患者の割合が高い傾向にありました。しかし調査後の1998年度は、男女差がかなり縮まっています。

入院したときの平均年齢は、男性27・2歳、女性27・1歳でした。表1に示したように年代別では、20代前半の症例が27・5%ともっとも多く、20代後半が23・9%、10代後半の17・3%がそれに続きました。このように20代だけで過半数を越えることが特徴です。

年齢分布では、男女ともほぼ同様の傾向を示しています。開設20年目の時点とくらべてもその後、大きな変化は見られませんが、この6年間、14歳以下の若年齢の入院がない一方で、55歳以上の症例が6名入院しています。

また入院時の年齢を、類型別に比較すると、高い順から普通神経質32・5歳、発作性神経症30・5歳、強迫神経症27・7歳、対人恐怖24・2歳でした。

(2)入院期間

入院期間(表2)は、2〜3か月間の入院が19・9%、ついで3〜4か月間が17・0%、1〜2か月間が14・7%の順でした。3か月以上の入院期間におよぶ症例が過半数を越えています。

時代的にみると、開設当初にくらべて長期化する傾向がみられましたが、1995年以降はやや短縮の傾向に転じています。

(3)神経質のタイプ

森田神経質の3分類(表3)では、強迫観念症(対人恐怖と強迫神経症)が74・9%と圧倒的多数を占め、ついで発作性神経症17・8%、普通神経質7・2%の順でした。

前回の調査とくらべ、発作性神経症の割合がやや減少し、そのぶんだけ強迫観念症の割合が増加しています。さらに、強迫観念症の下位分類を見ると、対人恐怖(39・4%)が強迫神経症(35・5%)をいくらか上回っています。対人恐怖の中では、「神経症レベル」の症例が「重症例」よりも多い傾向にありました。強迫神経症については、「その他」「不完全恐怖」「不潔恐怖」「縁起恐怖」の順で多く、「不潔恐怖」のみ女性の割合が男性を越えています。

(4)神経質の時代変化

表4は、開設いらいの神経質分類を5年ごとにまとめたものです(97年度の症例は除外してあります)。

普通神経質は、92〜96年度にかけてそれまでの減少傾向から増加に転じたとはいえ、それでも初期のころにくらべれば割合としては少ないものです。つぎに、91年度まで横ばいであった発作性神経症が、92〜96年度の5年間ではほぼ半減していることが目に付きます。

いっぽう強迫神経症は、やや増加の傾向を示しています。下位分類をみると、「不完全恐怖」は10%前後とほぼ一定の割合でしたが、「不潔恐怖」が92〜96年度にかけて目立って増加しています。また、この10年間「縁起恐怖」は減少傾向にある一方、「その他」のタイプは明らかに増加傾向を示しています。

(5)退院するときの改善率

退院するにあたって、「軽度改善」以上の割合─すなわち改善率は、全体で64・2%です。男女別では、男性は63・9%、女性は65・0%で、性差はみられません(表5)。

つぎに、神経質類型別に改善率(表6)をみますと、発作性神経症76・9%、対人恐怖63・2%、普通神経質62・1%、強迫神経症59・9%の順でした。

さらに下位分類をみると、強迫神経症の「不完全恐怖」、対人恐怖の「神経症レベル」の改善率は、それぞれ81・2%、78・5%と、良好な治療成績を残しています。

この両群では、著しく変化した改善群の割合も25%を越えています。なお、強迫神経症の「その他」、および対人恐怖の「重症例」では、改善率がそれぞれ48・4%、43・4%と相対的に不良でした。

(6)職業

もっとも多いのが、無職の人29・6%です。ついで学生28・8%、会社員23・9%、アルバイトその他12・2%、主婦5・0%の順でした。

無職の人は、前回の調査時点(24・1%)より増えています。とくに強迫神経症と対人恐怖「重症例」で多く、後者では38・7%に達します。社会生活に支障の著しい症例の、入院が増加している表われとも考えられます。

ちなみに、職業と改善率との関係では、改善率は主婦72・8%、会社員71・3%、学生66・3%、無職57・9%、その他56・0%の順でした。

(7)学歴

学歴では、大学在学中もしくは卒業したものが、もっとも多く43・5%でした。従来からの、神経質症例が比較的高学歴のものに多いという印象を裏づけています。ついで高校在学または卒業35・9%、短大あるいは専門学校在学もしくは卒業14・3%、中学在学または卒業4・3%の順でした。

統計資料からの考察

(1)性差、年齢、入院期間

男女の比率については、以前の調査結果と同様、男性が女性を大きく上回っています。この結果を見るかぎり、比較的重症もしくは深刻な不適応をきたして入院治療を希望する症例は、依然として男性が多いということになります。

しかし調査の終了後から現在に至るまでは、女性例が半数ちかくを占めており、性差に変化のきざしも認められます。森田神経質といわれるような女性の症例が増えているという報告があるほか、女性スタッフの増加という治療条件の変化もあり、今後は男女比がちぢまる可能性もあるでしょう。

入院者の平均年齢は、開設以来ほぼ一定です。森田療法は、青年期もしくは成人早期の患者をもっとも多く扱っている、という状況に変わりはないようです。

ただ年代ごとにみると、近年、10代前半の症例はほとんどみられない反面、中年期、初老期の症例は割合としては多くないものの、コンスタントに入院しています。私たちは、青年期のみならず中年期の症例に対する精神療法としても、森田療法の担うべき役割は大きいと考えています。

入院期間については、前回の調査以降、早期の治療脱落が減少しています。これは症例に応じて治療導入をていねいに行なうようになったことに加えて、95年に看護婦が配備され、それまで以上に保護的な機能が高まったことが影響していると推測されます。また、治療のむずかしい例の増加を反映して、最近まで入院期間が長期化する傾向にありました。が、ここ2〜3年は、ふたたび短縮傾向にあります。入院期間の短縮は、今日の医療状況のながれですが、それだけに退院後の通院指導の役割が増大してきたといえましょう。

(2)神経質類型と時代的変化

近年の入院例は、神経質3類型のうち強迫観念症に偏りつつあります。

また、とくに過去5〜6年、発作性神経症(不安神経症)の減少が目に付きます。これには「パニック障害」という診断名が普及し、精神科外来で薬物療法が広く実施されるようになったことが影響しているものと思われます。

もとより、このような傾向に問題がないわけではありません。たしかに薬物療法によりパニック発作の回数を減少させることは可能で、私たちも森田療法を行なううえで、しばしば薬物を併用します。しかし病院によっては、患者にただ漫然と薬物を投与する結果、治療期間(服薬期間)は長期におよび、外出恐怖や乗り物恐怖といったパニック発作に続発する深刻な問題に、有効な手だてが講じられていない所もあります。

このような状況を見るにつけ、精神療法の必要性を痛感します。じっさい、入院森田療法では発作性神経症(パニック障害)に高い治療効果をあげており、それは症状ばかりでなく、予期不安によって妨げられてきた生活全体の向上をもたらすものだと思うのです。

つぎに、対人恐怖症は─従来から森田神経質の中核群と考えられ、森田療法が長年、治療実績をあげてきた病態です。最近の5年間はやや頭打ちとはいえ、依然としてもっとも入院患者中の割合が高いものです。そして、とくに「神経症レベル」の定型的な対人恐怖症は、入院森田療法によって高率の改善がもたらされています。

それに比べて、「重症型」の対人恐怖症の治療成績はやや劣ります。しかし、もともとこのタイプは、他の精神療法や薬物療法によっても治療のむずかしい病態であることが精神科医の共通認識です。したがって50%弱という改善率は、決して低いものではありません。

また、たとえ入院治療でめざましい変化が得られなくても、数か月のあいだ他者とのかかわりを持ちながら生活したことは、その後の社会生活を営むために貴重な体験となっているはずです。

第3に、一時、やや減少傾向にあった強迫神経症の入院者が最近5年間、ふたたび増加して、その傾向は調査を終えたあと現在まで続いています。

なかでも「不潔恐怖」の入院者が過去5〜6年、目立って増加しています。このタイプは、つよい強迫行為をともなう傾向にあり、かつては意志薄弱型として森田療法から除外されることも少なくなかったのです。

しかし近年、強迫行為をもつ症例への技法に工夫が加えられています。また、積極的に薬物療法との統合を図りつつ治療するようになった結果、治療成績が向上しているのです。それに、このタイプは外来治療が困難でもあるため、現在では入院例の少なからぬ割合を占めるに至っているともいえるでしょう。

今ひとつ、長期的な増加傾向にあるのが強迫神経症「その他」のタイプです。このタイプは、複数の強迫症状が共存したり、あまり典型的でない強迫主題を示す一群で、強迫神経症の中でもっとも改善率が低かったものです。近年、強迫神経症の症例には「対人恐怖」様症状や抑うつ、身体症状などの共存症状が増加しているというのが実状です。これらのことを踏まえると、今日的なタイプの強迫神経症には、今後いっそうの治療的工夫を重ねる必要があるといえます。

むすび(新しい時代の森田療法)

さて、以上のような調査結果から、どのような傾向を読みとることができるでしょうか。

それは─入院森田療法が、社会生活の困難な、比較的重症の患者さんを多数治療してきたこと。とくに近年では、強迫行為や対人恐怖症状のため引きこもりがちである患者さんの治療を担っているということです。これらの症例は、外来での治療が困難な人たちであることはいうまでもありません。

一般に、外来治療や自助グループでの回復が見込まれるのは、比較的軽症で社会生活がどうにか可能な人たちだということを考慮するなら、これらと入院療法の機能が、たがいに補い合っていることが見てとれます。

もうひとつ大切な点は、一人の患者さんの治療に際して、「入院か外来か」の二者択一ではなく、両方の治療形態を弾力的につなぎ合わせていく可能性があるということです。よく考えればあたりまえのことなのですが、従来、このような発想がなかなか生まれにくい傾向にありました。

しかし今や、森田療法家の発想を転換する必要が生じています。たとえば、外来治療や自助グループでの活動を基本に据えたとします。しかし中には、どうしてもあるところで壁にぶつかって実践が広がらない、あるいは自分を受け容れることができない、といったこうちゃく膠着状況に陥ることは少なくないはずです。

このようなときに、3か月間を平均とする従来の入院治療ではなく、たとえば最初のがじょく臥褥と軽作業期にかぎった、短期の入院治療が考慮されてもよいのです。これなら仕事や学校を休む期間も短く、入院による社会生活への影響も少なくすみます(有給休暇の範囲内で入院を終えることも可能になってきます)。

それを突破口に行動を立て直し、ふたたび外来や自助グループに戻って治療を継続すればよいのです。私は入院・外来森田療法の双方にたずさわる立場にいるせいか、このように一人の患者さんの治療を、連続した流れの中で考えていく必要を痛切に感じます。

以上のように、入院療法では比較的重症の患者さんの治療を担いながら─短期の入院形態も併用していくというやり方によって、入院・外来・自助グループへと多様化した森田療法が、いま一度ゆるやかに統合されていくこと。これが新しい時代の森田療法のあり方であり、また患者さん一人ひとりのニーズに適合した方法だと考えております。

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