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メンタルニュース

メンタルニュース NO.33

浜松医大の入院森田療法・外来森田療法

ーわかりやすい森田療法に取り組んだ20年

1.森田正馬

I. はじめに

本題に入る前に「不安」を取り上げてみたいと思います。「不安」は人間にだけ備わっている特性で、体力的に弱い人類は常に不安にさらされながら、細心に工夫を重ねることで今日の繁栄を手に入れたと考えられています。健康な人には「根拠のない楽天性」という不安に拮抗するメカニズムが備わっているため、多くの時間、不安を忘れています。これにたいして、神経質では「不安がなくなれば何でもできる」、「今日はだめだが、明日はうまくいくはずだ」等と、目前の行動を回避する言い訳として「根拠のない楽天性」を利用してしまい、結果として何の行動もできないまま、悪循環をさらに強化してしまいます。言うまでもありませんが、「不安なまま行動する」ことで、健康人のようにいつしか不安を忘れていることが森田療法の目的なのです。

II. 森田療法の治療理念

森田療法は、慈恵医大の初代教授であった森田正馬が創始した治療法です。森田は幼い頃から病弱で、不安神経症に悩んでいたといわれています。森田が試行錯誤の結果、神経症を克服し、1920年頃に治療技法を確立しています。森田療法では「神経質は本人のみが病気と思い込み、間違った観念優位の対応により誤った思考と行動を固定化した状態」と理解します。治療理念は間違った観念優位の対応を健康人の行動本位に変換し、心の健康を回復することです。そのためには、「不安」は行動していれば忘れてしまうことを体験的に理解してもらうことに取り組んでもらいます。
神経質の発症機制は図1のように、素質・準備状況・機会で理解されています。ここで筆者らが重視するのは、素質よりも準備状況です。進学や就職に伴い、自分の理想と異なる不満足な結果しか残せず、不全感・不適応感を体験するという挫折体験は神経質に特有のものではなく、健康人にも多くの挫折体験があります。挫折体験に直面した時に、健康人は不満足な結果という事実に対して、より努力するか、要求水準を引き下げるかの現実的判断をします。これに対して、神経質では、結果という事実から目を背け、高い要求水準を引き下げることもできず、堂々めぐりの悪循環に陥ります。健康人のように挫折体験を現実的に解決すれば過去の失敗は「笑い話」になりますが、神経質では自分への要求水準が高くなりすぎてしまい、独りで劣等感を感じ続けることになります。このような「生き方」の問題が神経質の本質であると見抜いたのは森田の慧眼で、同時に「神経質を活かす」ことで健康を取り戻すという解決法まで提示してあることが、森田療法が最強の精神療法とも言われる理由なのだと筆者は考えています。

III. 森田療法をわかりやすくする工夫

図1神経質の発症機制

不安や症状の原因を考えようとすれば、堂々巡りの悪循環に陥ります。浜松医大の森田療法では、この悪い習慣を「行動することで症状や不安への拘りを忘れる」体験を通して訂正し、不安への対処法を獲得できるように援助します。しかし、神経質では行動に取り組もうとしても、「あるがまま」などの語句の意味づけに拘って治療の進展が妨げられることがあります。このため、筆者は納得できないまま行動することが「行動本位」、症状や不安へのこだわりを持ったまま行動を開始する心構えが「あるがまま」なのだと説明するようにしています。 森田療法では「不問」が重視されますが、治療者と症例の間に十分な信頼関係があり、患者がこれを言えば不問と言われるに違いないと感じながら発言した時に治療者が不問を提示することで始めて治療効果を得られるのです。浜松医大では、患者が不問を受入れる準備状況が整うまでは、可能な限り丁寧な説明をするようにしています。

(注1)「不問」:不問療法とも言われる。患者の症状に関する訴えは、「言葉にとらわれる」「理屈にとらわれる」として、極力取り上げずに、ひたすら行動を通しての体得に至らせるための技法。
文献:「目でみる精神医学シリーズ‐3 森田療法」大原健士郎・大原浩一編(世界保健通信社)

IV. 浜松医大での取組み

浜松医大では森 則夫教授の赴任以来、平易で一般的な用語を用いた森田療法テキストと森田療法専用の診療録を使用し、定期的な勉強会、症例検討を繰り返すことにより、医員、研修医、臨床心理スタッフを対象として、森田療法の教育を周知徹底させることを試み、同時に以下のような治療技法の変更を行いました。

  1. 入院後に観察期間を置き、診断と治療方針を決定した上で森田療法に導入する。
  2. 症例によっては絶対臥褥を行わずに作業期から治療に導入する。
  3. 絶対臥褥期、作業期、複雑な実際生活期の各時期に応じた段階的な治療プログラムと具体的な治療課題を設定し、治療課題の目的と意味を説明した上で治療に導入する。
  4. 日記指導の評を平易な用語で、治療経過に即して達成できた課題を評価し、次の課題を達成できるように助言を記載する。

浜松医大の定型的な入院森田療法は、絶対臥褥期・軽作業期・重作業期・生活訓練期で構成されています。しかし、あらかじめ入院期間が短いことが判明している症例、観察期間の評価で不安耐性が低いと判断した症例に対しては、絶対臥褥を施行せず、軽作業期・重作業期・生活訓練期で構成された治療を行うこともあります。

1.絶対臥褥期の治療課題

  • 第1課題:「不安や症状への苦痛から逃げず、直面して耐えることが最善の対処法と体験を通して理解すること」です。 この課題の治療的意味はパニック障害の症例でより本質的なものであるため、臥褥開始前に不安や症状は短時間で消失することを説明し、不安や症状が現れて消失するまでの経過を観察してみるように指示します。
  • 第2課題:「退屈を感じ、積極的に活動したいという欲望を起すこと」です。 不安や症状の苦痛に耐えて行動するという森田療法の行動療法的側面に導入するために、退屈を感じ積極的に活動したいという意欲(生の欲望)を自覚することは、治療への動機付けを強化するという意味があります。このため、絶対臥褥開始前に課題の治療的意味を説明し、理解と同意を得るための治療的関与を行っています。

2.作業期の治療課題

浜松医大での作業の課題は、病棟内の清掃、花壇の世話(午前・午後各30分程度)、畑の見回りと水撒き(午前30分程度)、畑作業(週2回)、レクリエーション、絵画療法、音楽療法等の準備と片付け、週1回の集団精神療法(森田ミーティング)などで、作業の密度はそれほど高いとはいえません。このため、病棟の行事予定や病棟で使用するディスプレイの作成を作業課題とし、森田療法グループのリーダーには病棟スタッフと共同での作業内容や役割分担の決定、レクリエーションや病棟行事等の司会の課題も遂行してもらっています。
重作業期・生活訓練期には図2、図3に示したような段階的な治療プログラムと具体的な治療課題を用いています。これは、精神交互作用を打破する行動療法的課題の達成を基盤として、誤った認知様式を健康な認知様式に修正する認知療法的課題を達成しやすいようにする治療戦略なのです。
治療課題の(1)から(3)は精神交互作用を打破する行動療法的課題です。治療課題の(4)、(5)は行動療法的課題の達成を基盤として、誤った認知様式を健康な認知様式に修正する認知療法的課題です。
図2 重作業の課題 治療課題の(6)から(8)は、誤った認知様式を健康な認知様式に修正し、現実場面での適応に結び付けてゆく応用的課題です。
治療プロセスと治療課題をわかりやすい形で提示し、理解と同意を得た上で、治療に導入しても、症状への予期不安や自分の思い通りにならない予想から「できない」という自己暗示を使用して現実の行動を回避しようとすることが少なくありません。このような場合には、患者自身にあえて「こわいからやりたくない」と言い直しをさせることで、現実の行動に向かえるような介入を用いています。また、作業期には「分かっていても、考え方が変えられない」と抵抗を示すことがしばしばあります。これに対しては、「苦労して、体験を通して理解したことだけが身につく」と説明し、試みた姿勢を支持することで継続的に治療に取り組めるように介入します。
図3 生活訓練期の課題 生活訓練期には森田療法グループのリーダー的役割を果たすとことで、他の患者や病棟スタッフとの軋轢を生じやすくなります。これに対しては、「失敗を活かす」体験が、治療を大きく進展させるきっかけになることを説明し、試みる姿勢を継続できるように助言します。また、退院後の生活の準備に取組む際には、その経過を森田ミーティングの場で報告してもらい、参加者全員が不安や回避的な感情のまま現実の課題に取り組む姿勢を共有できるように助言と指導を行います。

3.社交恐怖に対する治療課題

社交恐怖の症例では、過去に仲間集団から支持された肯定的な体験が乏しく、自分が仲間集団に支持されていないのではないかという恐れが存在します。このため、「自分は支持されている・嫌われていない」ことの証拠探しを始めますが、周囲に対して観察過剰になるために、些細なしぐさや反応から、当初の意図とは正反対に、「やはり自分は支持されていない、やはり自分は嫌われている」と間違って結論づけてしまうことになります。このような社交恐怖の心理特性に対して、対人関係の技能の獲得と社会的回避行動の改善に焦点づけた図4のような治療課題を構成し、治療に適用しています。
先に述べた一般的治療課題と同様に、(1)から(3)は精神交互作用を打破する行動療法的課題、(4)、(5)は行動療法的課題の達成を基盤として、誤った認知様式を健康な認知様式に修正する認知療法的課題で、(6)から(8)は、誤った認知様式を健康な認知様式に修正して、現実場面での適応に結び付けてゆく応用的課題です。

(注2)「精神交互作用」 われわれがある感覚に対して注意を集中すれば、その感覚は鋭敏になり、そうした鋭敏になった感覚はさらに注意を固着させ、この感覚と注意が交互に作用することによりその感覚をますます強大にする、そういう精神過程名付けたもの。
(文献:「新版 神経質の本態と療法」森田正馬著 白揚社)


<社交恐怖の入院症例>
図4 社交恐怖の課題 20代の男性。高校入学後から対人場面での緊張を強く意識し、3年に進級後は登校できず、卒業はしましたが、アルバイトを試みても長続きしませんでした。家族の勧めにより森田療法目的で入院。周囲への過剰な関心と緊張感のため「人の話を聞く」課題に苦労しましたが、会話の内容に意識を集中できるようになり、緊張しながら発言できるようになりました。この後、病棟行事の計画・運営を通して、失敗をダメと決めつけず、具体的な工夫をする発想ができるようになり、退院しました。退院後、専門学校に入学しましたが、「同級生との付き合い方がわからない」と悪い習慣に戻りかけました。「誘われたら1回つきあって、楽しいと感じたものは続ける」という助言を受け入れることで、健康人の行動と考え方を獲得することができました。その後、複数の資格を取得し、就職が決まった時点で治療を終結しました。

<うつ病、強迫性障害の入院症例>
40代の男性。大学卒業後就職し、順調に仕事をしていましたが、3年前、転勤を契機に抑うつ、不安、不眠が出現し精神科クリニックでうつ病と診断されました。外来で薬物療法を受け、抑うつ、不安、不眠は1月程で改善しましたが、仕事に集中できずに休職しました。1月後に復職しましたが、仕事が手につかず、再度休職しました。その後、抑うつ症状は軽度でしたが「頭が働かない」ことを繰り返し訴え、自宅ではほとんど活動できない状態でした。精神科クリニックからの紹介で、意欲低下と回避性の改善に焦点づけた森田療法目的で浜松医大精神科に入院。絶対臥褥からの森田療法を導入。臥褥期間に退屈感を感じ、活動意欲に改善がみられました。作業には全て参加していましたが「頭が働かない」ことを執拗に訴え続けました。森田ミーティングの場面で訴えをとりあげ詳細を尋ねたところ、人の名前などの些細なことを全て思い出すまで想起し続ける確認行為を繰返していたことが判明しました。確認行為の繰り返しのために頭が過活動になっていることを指摘し、計算は紙に書く、音読するなど行動に専念できるように具体的課題を提示しました。この後、次第に行動に専念できるようになり、退院しました。現在、復職し、問題なく仕事に従事できています。

V. 外来での森田療法

外来での森田療法は、症状を形成している悪循環を自覚してもらい、個別に、納得が出来ないまま行動する課題を提示し「不安は時間が経過すれば忘れてしまう」体験を通して、健康人の考え方と行動を獲得してもらう作業を継続してゆきます。外来治療では、集団で行動することで行動への専心が容易になるという入院治療の利点が活用できません。このため、悪循環の自覚と具体的な治療課題の設定に専門的な技術が必要です。浜松医大では退院症例の集団精神療法への参加を外来森田療法としています。

<強迫性障害の症例>
受診時45歳の男性。20歳代後半から「無意識に他人に危害を与えてしまうのではないか」という強迫観念が出現し、複数の精神科クリニックで治療を受けましたが改善せず、森田療法を勧められて受診した時には日常生活のすべてに確認を繰返している状態で仕事も休職中でした。症状が強いこともあり、入院治療を勧めましたが、費用の問題で外来での治療を希望しました。はじめに悪循環過程を自覚できるように説明をしましたが、「頭では分かっていても行動ができない」と繰り返して自ら行動に取組むのは困難でした。このため、診察室内で「実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則35」を音読する課題を提示しました。その後、音読に専心することで強迫観念が消退する体験ができました。これを契機に家でも 頻繁に音読をするようになり、「お父さん声が小さい」と妻に叱責されながら、次第に行動量が増加しました。この後、「いつまでも休職しているのは肩身が狭い」と復職を決断し、現在まで2年間仕事を継続できています。「妻もお父さんのおかげと晩酌の肴に良い物を出してくれるので幸せ」、「あの頃はいつか幸福な人生に戻れると夢想していて我慢して動く決断がこわかった、耐えて仕事に行くのが健康ですね」と回想しています。

(注3)「実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則35」:著者自身が強迫性障害を克服した経験を基に、患者への助言が35の鉄則としてまとめられたもの。
文献:「実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則35」田村浩二(文芸社)

<家族関係の悩みへの森田療法の応用>
初診時53歳の女性。明朗・活発な性格で友人も多く、高校卒業後就職し職場で知り合った夫と結婚。結婚当初から夫の機嫌を害さないように気遣いしてきましたが、定年が近づき、「夫といると不安になる、夫と生活するのが嫌になった」ということを主訴に受診しました。「離婚してもいいと考えるが、孫に会えなくなるのも淋しい」と煮え切らない様子でした。症例の訴えを聞き、夫婦間のコミュニケーションの不全に起因する悪循環に関して、時間をかけて心理教育を行い、その上で「夫にどうしてほしいのかという要求を明確にする」ことを提案しました。経過の中で、過去の不快な体験、夫に対する不満が述べられましたが、要求を明確にするように繰返し指導し、以下のような具体的な要求をまとめました。

  1. 不機嫌な顔をせずきちんと会話をしてもらいたい
  2. 無言で新聞を読みながら食べるのをやめてもらいたい
  3. 友人と出かける時に嫌な顔をしないでもらいたい

このような具体的要求が提出された時点で「夫に行動を変えるように要求する時に、あなたはどのように自分を変える工夫をするのか」を課題として提示しました。この後、「気がついたことがありました」と自ら話し出しました。今までは、不満に思うことがあっても、やれば文句ないだろうという気持ちがあって、意地になっていたことに気づいた。夫がいろいろと家事を手伝ってくれても「ありがとう」が素直に言えなかった。今までは自分ばかりという思いがあって、不満ばかりだったが、意地になってしまうところを変えてみたいと洞察を示しました。家族関係の悩みを抱える人の多くは「家族だから分かってくれるはず」と思い込み、相手にだけ変化を要求するために悪循環に陥っています。森田療法の知恵を活かし、現実的な妥協点に向けてお互いに工夫をすれば、解決への道のりは遠くありません。

VI. 追体験入院

当科では、治療効果の定着を目的に、集団精神療法(森田ミーティング)への参加を促してきましたが、退院後の生活が長くなるにつれ、入院中の生活態度を忘れ、ミーティングでの言語的なやり取りのみでは改善効果が不十分なことがありました。そこで、当科においても2泊3日の「追体験入院」を導入しました。一般的な追体験入院は木曜に追体験の目標を話し合った後、森田療法グループと共に作業に参加し、金曜は作業と集団精神療法に参加し、土曜日に追体験の総括をして退院するという日程で行います。
浜松医大で追体験を終了した患者では、入院森田療法の期間中に学んだ治療課題や体験的に理解したことの再認識が容易に出来たことが報告されています。また、先輩としての振る舞いや森田療法グループのバックアップをする役割が、追体験入院の症例の「外相を整える」良い機会となっていました。追体験入院を通じて、自信を高めたり、新たな対人関係スキルを学んだりすることが出来ることも多く、追体験入院は入院森田療法の治療効果を維持していく上で有効な手段であると言えます。

(注4)「外装を整える」:「外相整えば、内相自ずから熟す」という言葉からきたもので、外相を整えるとは、まず生活の形(=外相)から、健康人らしく振舞うことで、自然に心(=内相)も整ってくること。

<追体験入院を適用したパニック障害の症例>
イラスト1 40代の女性。14年前に仕事が多忙な時期に眩暈、脱力発作が出現し、精神科で薬物療法を受けましたが改善は不十分でした。その後、母親の死を契機に家事への不安が強くなり家事は夫が負担するようになりました。4年前から過換気発作と抑うつ気分が強くなり、浜松医大に入院。休養はできましたが、意欲低下と家事への不安は改善しませんでした。このため、治療を見直し、生活の改善を図る目的で入院森田療法を検討しました。導入前の面接で炊事への劣等感があり、自責感から「せめて炊事以外の家事は完璧にしたい」と考えながら、現実に何もできない自分を責め続ける悪循環が明らかになりました。完璧主義的な考えで解決しようとする誤った対応のために堂々巡りの悪循環に陥っていることを指摘し、常に余力を残して行動するために「手抜きを覚える」必要性を説明し、作業期から森田療法に導入しました。当初は他人の評価を気にして、やり過ぎて疲労していましたが、次第に余力を意識して行動できるようになり、頻発していた過換気発作もほとんど消失しました。外泊時には簡単な料理を手早くする課題を提示しましたが「家族が意外なほど喜んでくれた、手抜きは大切ですね」と笑顔で帰院しました。退院後に疲労から動揺することがありましたが、定期的に追体験入院を利用することで早期に改善できるようになっています。

VII. 森田療法から学ぶ人生の知恵

イラスト1

ひとは気まぐれな「感情」に左右されやすく、良く考えて納得してから行動しようとして、堂々巡りの「思考」に陥りやすいものです。また、ひとは待っていれば誰かが解決してくれるという「こどものこころ」の誘惑に弱いものです。心の葛藤のままに事実を認め、自ら行動し、試行錯誤して失敗体験を「笑い話」にすることが森田療法の人生の知恵です。
浜松医大で森田療法を受けた症例の心の状態の変化は、

  1. しぶしぶ行動する中で不安を忘れることに気づき、行動の範囲が増加する
  2. 行動範囲の増加により現実的な困難に直面し、克服するための助言を積極的に求めるようになる
  3. 現実的な困難に遭遇した時に、筆者がどう言うかを考えて行動できるようになり、自らの判断に自信を持てるようになる と要約できます。

このような心の状態の変化を促進するためには、症例の心に響き、現実の行動に向かわせるような助言と指導を、治療者自身の言葉で行う必要があります。治療者自身が深く理解しないままに難解な森田療法の用語を振りかざしても、決して患者の心には響くことはありません。浜松医大ではわかりやすい森田療法を実践して来ましたが、治療者自身が研鑽を繰り返し、如何に異なる症例ごとに理解できるような治療課題と治療的関与を自らの言葉で提示できるか思案し、修正することの繰り返しであったと実感しています。

星野良一(香流会絋仁病院精神科/浜松医科大学精神神経科)

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